かん水や肥料供給によって与えられている肥料・水は、用土の反応によって異なった結果をもたらします。これは、それぞれのCEC(陽イオン交換容量)と保持力によって表されます。
これらは結果的にpH及びに用土の伝導度に影響を与えます。
CEC:陽イオン交換容量
陰イオン(リン酸)と微量元素の保持力
有機物質と粘土は負の電荷を帯びています:これらは陰イオンです。その反対に、陽イオンとは正の電荷を帯びている分子です。
用土内では、陽イオンは2つの形を取ります:
簡単に説明すると、吸着作用とは2つの磁石の働きと似ています:
吸着された陽イオンと有機物質の表面及びに粘土の引き付ける力は微量です。この結合は簡単に壊れます。
この結合エネルギーの弱さのため、養液と用土の吸着部分で交換が頻繁に行われています。
養液にカルシウムイオンを供給すると、固定する場所が空いていれば、カルシウムの用土そのものへの吸着作用を促します。
pH5.5の用土では、用土のCECはカルシウムのみでは飽和されていません。
水分中のカルシウムイオンは、用土の空いている負の電荷を帯びた部分が全て飽和されるまで吸着します。
これが、CECの飽和点に達した状態です。
CECはカルシウムで飽和された状態です。しかし、それはpHが安定したということでしょうか?
反応性用土に硬水が使用されている場合、カルシウムはCECと関連してpH安定を担っている一部です。
重炭酸イオンは破壊されますが、CECはカルシウムイオンで飽和されており、そのため用土のpHの安定性が高まります。
有機用土のCECに固定されたカルシウムは、養液内のカルシウム量と用土内のカルシウム量のバランスが取れるよう、養液へ放たれます。
CECで失ったカルシウムイオンは、H+イオン(水素原子)によって置換されます。
これらのH+イオンは、酸性化作用を持っており、pHを低下させます。
注意:ブラックピートは、淡褐色ピートと比べ少なくとも3倍の潜在的な緩衝能力を持っています。
そこで、忘れてはならないのは、CECに固定されているのはカルシウムの場合養液に含まれているものよりも40倍の量、マグネシウムでは17倍の大きさになります。
これが意味しているのは、pH 5.5を超える用土でのカルシウムとマグネシウム欠乏は現実的ではないということです。CECにこの二つの元素を大量に含んだ、緩衝作用が弱い用土でも同じことが言えます。
「欠乏」、または言い換えると、カルシウムとマグネシウムの乏しい吸収は従来の有機用土によって「生じて」います。主に、かん水と用土の相性が悪い場合に引き起こされます。
例:
淡褐色ピートが主な用土(緩衝作用が弱い用土)に硝酸カルシウムを加えた場合:
pH 5.5(酸性とみなされる)で、硝酸カルシウムを15日間、全6回、1g/リットル与えます。
カルシウムのCECの飽和率は50%近くです。
この例では、いかなる有機用土でも硝酸カルシウムによる速いpH復元の幻想を表しています。
初期pH が5.5の用土、即ち、カルシウム飽和50%、マグネシウム飽和25%。
Ca2+が80 mg/リットル (4 meq/リットル Ca2+) およびMg2+が 20 mg/リットル (1.7 meq/リットル Mg2+) を含む 硬水の場合:
用土1リットルにつき、平均 100 mlかん水すると:8 mg Ca2+ と 2 mg Mg2+が加わります。
ブラックピートのpH を淡褐色ピートと同じように上げるには、平均的に、硬水では4~5回かん水が余計に必要です。
pH 4.5以下に落ちると、すなわち、Ca2+ Mg2+のCEC飽和率が30%以下になると、欠乏の問題は現実になる恐れがあります。ツツジが青くなり、ヒース腐植土に生える植物の生長を阻害したりしましす。
これらの極端なケース以外でも、園芸一般として、用土とかん水のバランスが適切でないために欠乏を招くことが多々あります。
特にマグネシウムは、かん水が長時間に続き行われたり、めったに行われずいると、摂取が上手く行われなくなるので注意が必要です。
また、同様に根に充分な空気が行き渡らないとマグネシウムの吸収が妨げられます。
カルシウムもまたシクラメンが発育旺盛な品種の場合、摂取が難しくなる要素です。
CaやMgの欠乏状態は、かん水パターンを変え、温室内の湿度を下げ、日中と夜間の温度差を少なくすることで正すことができます。
カリウムは、アンモニアと同様にCECの固定率が低い陽イオンです。即ち、カリウムの蓄えは平均的にCECの2.5%にしかなりません。
その上、液体内のカリウムにも固定されたカリウムにもほぼ同量のカリウムが含まれています。
即ち、カリウムとは浸出しやすい習性を持っているということが言えます。
注意:カリウムは、有機性の用土では、硝酸態窒素(N-NO3)よりも2倍遅く溶出します。
また、アンモニアイオンは、カリウムと同じくらいの溶出速度です(蓄積分p15 の2.8.3 参照)。
用土の吸着力とは陰イオンと微量要素を吸着できる能力のことです。
この吸着力は、有機物や粘土、または水酸化鉄、水酸化アルミニウムなどの「コロイド」状物質の存在と関わりがあります。
ある種の土はリン吸着力を持っており、それは石灰が含まれていることと関係しています。
有機用土内では、カルシウムブリッジ(橋・リンク)は強力ではありません。
リン吸着力は、アルミニウムや鉄濃度の高いピートに関係してきます。
ピートのリン吸着エネルギーは強く、リン酸塩はシクラメンに吸収されない場合もあります。
そこで、アルミニウム部分をリン酸塩で飽和することが必要となってきます。水溶性リン酸塩になり吸収できます。
これが基礎肥料の役目です。
Cl-: 塩素化合物と硝酸態の窒素は完全に浸出性です。
SO42-: 硫酸塩も浸出しますが、微結晶石膏(CaSO4, 2H2O) の形で凝結する特徴があります。この微結晶が蓄積され、周りの硫酸塩濃度が低くなります。長期栽培の最終段階では、この石膏凝結の速度は次第におち、水で「洗い流す」効果が充分でないと硫酸塩濃度が高くなってしまいます。
注意しなければいけないのは、硫酸塩肥料は同量の硝酸塩やリン酸塩よりも塩類濃度の上昇を促すので、肥料を選ぶ際には、硫酸塩量が少ないものを選びましょう。
BO33-: ボロンは、有機物に吸収されます。水溶液によく溶け、吸収はかん水と乾燥の差が大きく、ストレスが加わった場合にさらに悪くなります。この現象はよく夏期に目立ちます。
MoO42-: モリブデンは、酸性でないと浸出しないとされています。
これらの微量要素は、有機用土内にキレート状で存在します。キレートは、微量要素が浸出するのを防ぎます。
微量要素は水分溶解しにくい物質です。
通常、吸収は根と用土の接触があって行われます。もし、この接触が充分でないと吸収は行われず欠乏の恐れが出てきます。
また、忘れてはならないのは、銅は発酵性の有機物質にたいへん強く固定され、深刻な奇形の原因となります。
全ての生化学的反応は、人体でも、他の動物や植物でもその環境に支配されます。
生命過程が正常に機能するための主な要因のひとつとして、環境のpHが挙げられます。
シクラメンの樹液自体が、独自のpHを持っています。
pHは、無機要素の吸収状態を左右するので、栄養学を完全に把握するためには基本的な要因です。
pHは、Hydrogen Potentialの頭文字から取ったように、水素イオン(H+)の濃度をあらわす単位です。
すなわち、環境の性質(酸性またはアルカリ性)をあらわす単位です。
pH = - log [H3O+]
一番よく使われる比率は、1:1.5、1:2.5ですが、今後ヨーロッパ方式は1:5になります。
pHは抽出したサンプルの酸化レベルにたいへん敏感になります。CO2(二酸化炭素)により飽和されているほど、水のpHは高くなります。
用土の塩類濃度が高いほど、水のpHは低くなります。
そこで、水のpHとKCLのpHの差は小さくなります。実際に、少し酸性やアルカリ性に傾いている肥料での塩の存在が水素の作用を緩衝します。
水のpHは根の実際のpHを反映しています。
そこで、この値は生産者の施肥の指針になります。
この方法で得たpHは常にH2OのpHとKCLのpHの間となります。
もし H2O pH - pH KCl = 1.0,
土壌研究からあみ出されたこの方法は、抽出1:2.5で、1N(1リッターにつき1モール)のKCL溶液を使用します。
このpHはCECの飽和レベルを表し、周りの環境からは独立しています。
そこで、このpHは用土のCaとMg飽和展開を見るのに役立ちます。
例:
栽培中ある一時期Tでの測定結果:
適切なかん水を行い、15日後には伝導率の低下が見受けられた:
KCLのpHはCECの飽和レベルが依然として高いことを表しており、水のpHは6.9 という栽培にとっては危険な値に近づきます。
pH調整の不備は、頻繁に起こるシクラメン栽培のミスのひとつです。
アルミニウムやマンガン中毒は、発酵に導く不安定な物質が存在する状態で、酸性pHに相関性があります。
発酵はマンガンとアルミニウムの(還元)を高め、溶解性になり毒性を示す可能性があります。そして、この状況は根が窒息(発酵に伴う酸素欠乏)してしまうことにより、さらに悪化します。
この中毒現象は、栽培途中にpHが下がり、伝導率が上がると頻繁に起こります。
pHが酸性の場合、モリブデン欠乏はまれです。
pHが高い場合、リン不足には気づきにくく、育ちが悪くなります。
pH 7.1 から7.2 近くとpHが高いと、ホウ素(ボロン)欠乏が現実になる恐れがあります。
この現象は夏によく見られ、このpH値ではホウ素が不足するだけでなく、全体的な水分量も不足することによってホウ素の吸収が妨げられます。これは、シクラメンによく見られる現象です。
pHが高いと、シクラメンを含む鉄クロロシス(葉の色が薄くなる)に敏感な植物では、鉄とマンガン欠乏が頻繁に起こります。その上、球根植物なので、鉄とマンガンをうまく吸収できません。
注意!水の硬度やそれによって起こる用土への影響はpH値では判断できません。
例:雨水
雨水には重炭酸塩は含まれていません。
すなわち、緩衝されていないということです。
そこで、この水は周りの環境のpH値を低下させます。
貯水池に貯められている場合pHは8.0くらいまで上がります!・・・・実際に、pH値は水に含まれている水溶性ガス(特に、CO2)によって左右されます。
この雨水がpH 8.0 で貯水池を出、もしもpH 5.8の用土へかん水されるとpH値は奪われ、用土からのカチオンの溶出、すなわち、酸性化が行われます。
かん水に使われる水の硬度は、含まれている重炭酸塩(HCO3-)によって決められ、pHによってではありません。
重炭酸塩は、pHの値を著しく上げるので強アルカリ(強酸の反対)です。
注意:重炭酸塩は二酸化炭素の形で逃げます。そして、残るのは均衡の取れた弱酸/弱アルカリペア:溶液中のNO3-/Ca2+
すなわち、pHはこれ以上上昇できません。
この状態は、水に常に存在しているカルシウムがCECによって失われたCa2+を補うので安定します。
軟水は、重炭酸塩を含んでいません。
失ったカルシウムを補うため、すなわちpHを安定させるために硝酸カルシウムの補足が必要です。
肥料が酸化する際の特徴はアンモニア態から来ています。
尿素を含んだ肥料、そしていくつかの慣行性肥料(シクラメン用ではない)は尿素ポリマーを含んでおり、尿素は加水分解を経てアンモニア態窒素に変わるので、酸性化物質です。
水溶液内でのアンモニア態窒素から硝酸態窒素への変化は、養液のイオンの均衡を保たせるため、CECに固定された陽イオンCa2+ (またはMg2+)を含んだ養液へ導きます。
このカルシウムイオンとマンガンイオンの養液への溶出が環境の酸性化を徐々に促します。
肥料のなかには重炭酸塩を除去するために強酸を入れたものもあります。
pHと有機物の生物学的安定
生樹皮や堆肥などの素材の発酵は用土養液内での二酸化炭素発生につながります。
水中の二酸化炭素の強い分圧は、重炭酸塩の発生を促し、pHを上昇させます。
6ヶ月栽培では、元々pH 5.8 だったバークを基にしたミックスは、栽培終期にはpH 7.2 にまで上がることがあります。
リッターにつきグラム数で測られた塩類濃度は用土液内の塩の量を表します。
これは、伝道度で測定されます。
この測定の主旨は、電解液(溶解後イオンに解離する)の性質によって左右されます。濃度が濃くなるほど伝導度は高くなります。
これは、以下の二通りに表現できます:
フランスでの一般的な導電率の測定方法は、体積1:1.5のサンプルから測定する方法です:
体積1の用土に対し、1.5の純水
測定の記録は、出来ればろ過後、最低20分以上接触させてから行います。
養液の塩類濃度による影響として、浸透圧差が大幅に開きシクラメンが水を吸収できなくなってしまうことがあげられます。
これが、生理学上の渇水と呼ばれるものです。
これは、発育旺盛さをコントロールするために利用されます。
球根植物の発育旺盛さは、まず温度、水、光、施肥など、基本的な生育支配の要因によって決められます。
かん水が規則正しく行われ、伝導率が安定するほど、株の発育旺盛さも、生長もバランスの取れたよいものとなります。
従来のシクラメン鉢では、伝導率は比較的低くなります。
ミニシクラメンをピート主体低塩類濃度係数で栽培した場合、株をコンパクトに保つため伝導度を高く保ちます。このかん水パターンで、小さい鉢で少ない用土の体積だと、さらに高い伝導度でコンパクトに保ちます。
電導率の測定は用土の栄養レベルを計るためにも使われます。
例1:
抽出サンプル 体積1:1.5 PG ミックス1 kg/m3が含まれたピート主体用土から電導率と栄養値の測定
この例では、電導率の値から窒素割合は低く見積もりすぎている可能性もあります。
アンモニア態窒素は硝酸化し、電導率はほぼ同じくらい上がります。
例2:
初期のEC + 0.35 = 1.15 mS/cm
(3.5 meq N-NH4+/10) 最終EC
測定された電導率レベルは、おおよその栄養レベルを表します。しかし、電導率は高い硫酸塩のみに支配されます。
この抽出サンプルでは、窒素値を測定するには、例えば、クイックテストの方が向いています。
病気に罹りやすくなる危険性がありますので、塩類過多には気をつけましょう。また、根毛の劣化、カルシウムとマンガンの吸収率の悪化などをもたらします。
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